長い旅をする本

琉球新報社提供 「落ち穂」03 2019.2.15掲載

朝起きると天気予報を見る。雨は降るか。風は強いか。波は高いか。台風の動きには特に注目する。

外に出て馬の世話をしながら空を見る。どんな雲があるか。どのくらいの速さで動いているか。風を肌で感じる。方角と風圧を確かめる。

天気が気になるのは、野天で暮らす馬のため。そして本の発送に関わるからだ。

与那国島では天気が悪いと飛行機や船が欠航になる。台風ともなればそれが長期に及ぶ。外との行き来が絶たれてしまう。いつも風の吹いている与那国島が好きだけど、あんまり強く吹くと飛行機が飛ばない。そうなると本を出荷できないので困る。困るけど、そういうものだと思う。天に任せるほかない。

飛行機が飛びそうだったら、本を荷造りして郵便局へ持っていく。与那国郵便局は日本最西端にある郵便局だ。本は馬のスタンプを押した封筒に入れて送っている。カディブックスの本には、たくさん馬が描かれているから、なんだか馬が旅立っていくような気持ちになる。

飛行機が飛んでも本の旅はまだまだ続く。与那国から石垣へ、それから沖縄本島へ、そのまた先へと中継されながら本は運ばれてゆく。はしっこの島から読者の手元に届くまで、いったいどれほどの時間がかかるだろう。天候によってはさらに遅れるし、その上いつ届くかもわからない。今どきの日本では考えられない届け方だ。

おもしろいなあと思うのは、注文してくださる方々は、こんなふうに時間がかかることをむしろ楽しまれるようなのだ。すくなくとも「遅い」と文句を言われたことはない。たいていは「ほんとうに与那国島から本が届いたよ」とか「遠いところをよく来たね」と本を迎えいれてくださる。まるで遠方から旅人が訪ねてきた時のように。

距離を具体的に感じられる時間があると、その道程を自然に想像するものなのかもしれない。私自身もよく想像する。今この瞬間に本を運んでくださっている方々のことを思う。様々な人の手を借りながら、今日も本は、空や海や陸を旅しているはずだ。

text by 河田桟