本と小さな生き物

琉球新報社提供 「落ち穂」04 2019.3.5掲載

カディブックスの本は一冊ずつ透明な袋に入れて封をしている。書店に並べられている一般的な新刊はそうしていないことが多い。封入する場合にはなにがしかの理由がある。カディブックスの場合もやはり理由がある。

ひとつは本を落ち着かせるため。カバーを手折りで付けると機械で作るようにピシッとならない。なんとなくふんわりしている。それを透明な袋にきちんと収めると落ち着いて新刊らしい顔になる。

もうひとつは小さな生き物から本を守るため。小さな生き物といっても、夜中に小鬼が出てきて悪さをするなんていう話ではない。そんなことが起こったらそれはそれで興味深いけれども。

与那国島には虫や鳥や爬虫類などの小さな生き物、それよりもさらに小さな菌類などがあふれんばかりに生きている。その生き物たちから本を守らなければいけない。

たとえばヤモリ。部屋の中にいて、どこからかキョッキョッキョッという愛嬌のある鳴き声が聞こえてきたら、それはヤモリだ。見回せば天井か壁か窓にその姿が見える。こんなふうに野生の生き物が同じ家に暮らしているのは楽しい。だけどヤモリは糞をする。それが本に着いたら困ったことになる。

それから紙魚(しみ)。紙魚というのは透明がかった銀白色の虫で、足がたくさんついた舟のような姿をしている。紙や布を食べる。本は紙魚の好物だ。せっかく作った本を紙魚に食べられてしまったら、やはり困ったことになる。

高温多湿の気候はカビも発生しやすい。そして窓を開ければ塩をたっぷり含んだ風が吹いている。そのような環境で本を長期間よい状態で保管するのはたいへんにむずかしい。東京から持ってきた私の本は十年でぼろぼろになった。そういう意味でも在庫を持たず少部数で増刷を繰り返す方法は理にかなっている。

本に限らず、南の島では建物も車も驚くほどの速度で姿を変え自然に還っていく。それを劣化と呼んでいいのか私にはよくわからない。今のところ、本の姿が変わらないうちに読者へ届けたほうがよいだろうと思っている。

text by 河田桟