動きを伝える

琉球新報社提供 「落ち穂」08 2019.5.10掲載

「馬語手帖」は馬のボディランゲージを紹介した本だ。馬の表情やしぐさが、それぞれどんな気持ちを表すかをトピックごとにまとめている。

生き物の「動き」を本でどのように伝えるか。動画だったら簡単だけれど紙の上ではそうはいかない。文章で出来ることは限られている。

まずは写真を考えた。試してみるとこれが案外むずかしい。馬の写真は日常的にたくさん撮っている。そこから探してみたが、あるトピックにぴったりの一枚なんて、そうそうあるものではない。なんとか近い写真があっても、感覚的にどうもしっくりこなかった。だからと言って馬に「こういうしぐさをしてください」などと頼めないし。写真では馬の動きのエッセンスを伝えられない気がした。

やはり絵ということになった。イラストレーターにお願いする方法も考えたが、いやそれはもっとむずかしいだろうと思い至った。なぜなら「こういう絵を描いてください」と、どうやって説明していいのかが、そもそもわからなかったからだ。

馬語はヒトの言葉にできない要素が多い。私は馬を見るのが好きだから、放っておけばいつまででも見ている。没入してしまう。そうして受け取った情報のほとんどは、頭で意識できる領域ではなく、身体的な感覚や神経回路につながっていると感じる。そういう感覚って、「これです」と明確に表現できないものだ。でも奇妙なことに、何かが違ったら「違う」とは言える。そのような感覚だ。

しかたがないので自分で描いてみた。絵は下手でも、私が受け取った馬の感覚と「違わない」ほうがいいと思ったのだった。ふだん絵を描く習慣はないので無謀にも思えたけれど、とにかく馬の動きのエッセンスが伝わるよう時間をかけて幾度も直しながら描いた。馬という生き物のおもしろさ、すばらしさが伝わるよう心を込めて描いた。

本として出来上がると、意外にも絵を気に入ってくださる方がいる。たどたどしくても伝わるものは伝わるとわかってうれしかった。これも、もとを正せば馬の力。ほんとうに不思議な生き物だ。

text by 河田桟