織物のように

琉球新報社提供 「落ち穂」09 2019.5.28掲載

与那国には伝統の織物文化がある。リズムに乗って織機をぱたんぱたんと動かす。織物と聞けばそんな映像が思い浮かぶけれど、織り子の友人に織物ができるまでの工程を実際に見せてもらったら、そのあまりの複雑さ、緻密さにくらくらしてしまった。

糸も色も自然から生まれる。どの材料をどんなふうにしたらどういう結果が生まれるか、まずはその知識がなければ始まらない。染めの工程はまるで化学の実験だし、精細な柄を織りあげるためには縦糸横糸の配置を数学的に把握する必要がある。少しでも間違えたらやり直し。すべての工程をきっちり順番通りに遂行しなければ、あの奥深い色と柄は出せないのだった。

どんな分野でもそうだと思うが、物作りの仕事には、外からは想像できないたくさんのプロセスが存在する。

本を作ることもそうだ。目の前に原稿があったとしても、それはせいぜい道半ば。そこから本という形に結晶化するまでに、とてつもないエネルギーと時間がかかる。はしっこの島の小さな出版社、カディブックスの本作りにしても例外ではない。

たとえばデザイン。本をぱっと見た時の印象、本文のページをめくった時の感触、文字の形、行間の空き具合。あらゆる視覚的要素は読書体験につながっていく。

デザインは感覚的な仕事ではあるけれど、コンピュータとアプリケーションを使いこなすための知識と技術と経験が必要だ。読みやすく美しいレイアウトは複雑な工程を重ねた上でやっと実現できるもの。そういうところ、なんだか織物に通じるなと思う。

「馬語手帖」では3人のデザイナーが仕事をしている。それぞれに担ってもらった役割がある。一冊目の本は、どこへ向かっていくのかわからないまま制作を始めたから試行錯誤が続いた。迷いつつ様々なプロセスを経過していくうちに、だんだんと本の形が浮かび上がっていった。

やがて私のいたずら描きみたいな馬の絵が、デザインの力によって呼吸し始めた。風が吹いて言葉が流れ始めた。そうして一枚の布を織るように、一冊の本が生まれた。

text by 河田桟